鳥獣戯画の所蔵は高山寺|本物が見れる展覧会と寺の複製

鳥獣戯画(正式には鳥獣人物戯画)を所蔵しているのは、京都・栂尾の高山寺です。国宝になっているのは甲・乙・丙・丁の4巻で、本物が見れたこれまでの大きな機会は、博物館の特別展に出品されたときでした。高山寺の石水院には、甲巻の複製が展示されているとされています。甲巻から切り離された断簡や江戸時代の模本は、また別の場所にある品です。

作品・巻(読み方)所蔵・所在見れる場所・公開の形内容と時代指定
鳥獣人物戯画の甲巻(ちょうじゅうじんぶつぎが・こうかん)高山寺(京都・栂尾)主に特別展に出品されたとき。石水院では複製を展示(観光庁の2022年の解説)擬人化された兎・蛙・猿など(平安時代後期)国宝
乙巻高山寺主に特別展に出品されたとき実在と空想の動物を集めた図譜(平安時代後期)国宝
丙巻高山寺主に特別展に出品されたとき前半は人間の風俗、後半は動物の戯画(鎌倉時代)国宝
丁巻高山寺主に特別展に出品されたとき勝負事を中心にした人物(鎌倉時代)国宝
紙本墨画鳥獣人物戯画甲巻断簡文化庁のデータベースでは所在は滋賀県公開の予定は展覧会の告知で確かめる秋草を背景にした猿・蛙・鼠(平安時代)重要文化財(2023年6月27日指定)
鳥獣人物戯画(模本)浦上春琴写東京国立博物館展示の予定は館の情報で確かめる甲巻系統の別本を分断前に写したもの(江戸時代・19世紀)指定なし

鳥獣戯画の本物はどこで見れるか

鳥獣戯画を探すときは、「所蔵」と「見れる場所」を分けて考えると話がすっきりします。持ち主は高山寺です。文化庁の文化遺産オンラインも「四巻からなる京都・高山寺所蔵の鳥獣人物戯画」と書いています。

では、高山寺に行けば本物があるのか。観光庁の多言語解説文データベースの2022年の解説では、甲巻について「高山寺の境内の石水院にその複製が展示されている」と説明しています。寺で向き合えるのは複製、というのがこの解説から読み取れることです。

本物の4巻がまとまって人前に出たこれまでの大きな機会は、博物館の特別展でした。2014年には京都国立博物館、2021年には東京国立博物館が、鳥獣戯画を看板にした特別展を開いています。どちらも常設の展示ではなく、期間を区切った展覧会です。

「鳥獣戯画 本物 どこ」と検索した人への答えは、場所よりも時期の話になります。所蔵先の高山寺と、これまで展覧会が開かれた東京国立博物館・京都国立博物館・福岡市美術館の展覧会情報を見ておくのが近道です。

甲・乙・丙・丁の4巻の違い

鳥獣戯画は1本の絵巻ではなく、性格の違う4巻の組み合わせです。高山寺の公式サイトは、4巻の中身を次のように説明しています。

甲巻は擬人化された動物の巻。兎・蛙・猿が人間のように遊んだり儀式をしたりする場面が続きます。観光庁の解説も、兎と蛙が猿を追いかける場面や、兎が鹿に乗る場面を有名な場面として挙げています。一般に「鳥獣戯画」と聞いて思い浮かぶ絵は、ほとんどがこの甲巻の場面です。

乙巻は、実在の動物と空想上の動物を合わせた動物図譜。観光庁の解説では、牛・鶏・犬のような身近な家畜のほか、龍のような想像の生き物や、象や豹のように日本にいない動物も描かれているそうです。

丙巻は、高山寺の説明では前半が人間の風俗画、後半が動物の戯画という2部構成。丁巻は勝負事を中心に人物を描いた巻です。

時代も巻ごとにずれています。高山寺は、甲巻と乙巻を平安時代後期の成立、丙巻と丁巻を鎌倉時代の制作と考えられると説明しています。同じ「鳥獣人物戯画」の名前でまとめられていても、描かれた時期には開きがあるわけです。

展覧会を選ぶときは、この違いを知っておくと役に立ちます。兎と蛙を見たいなら甲巻が出る会期を、動物図譜としての面白さを味わいたいなら乙巻が出る会期を狙いましょう。ポスターに甲巻の兎が使われていても、自分が行く日に甲巻が出ているとは限りません。

本物の鳥獣戯画が見れた展覧会

これまでに本物が出た3つの展覧会を比べると、巻の出し方がそれぞれ違います。

年会場展覧会名巻の出し方
2014年京都国立博物館特別展覧会「国宝 鳥獣戯画と高山寺」(10月7日〜11月24日)修理後の全4巻を展示。前期・後期で一部の作品や場面を替えた
2021年東京国立博物館特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」(4月13日〜6月20日)甲・乙・丙・丁の全場面を会期を通して公開
2022年福岡市美術館「国宝 鳥獣戯画と愛らしき日本の美術」(9月3日〜10月16日)前期は甲巻・丁巻、後期は乙巻・丙巻

2014年の京都国立博物館の展覧会は、館の広報誌で「国宝 鳥獣戯画と高山寺」の名で予告されていました。国立新美術館のアートコモンズに載る同展の案内によると、修理を終えた全4巻を修理後初めて展示する、修理完成記念の展覧会です。高山寺の中興の祖とされる明恵上人に関わる文化財もあわせて出ています。前期(10月7日〜11月3日)と後期(11月5日〜24日)で、一部の作品や展示する場面を替えたそうです。

2021年の東京国立博物館の特別展は、当初は5月30日までの予定でしたが、インターネットミュージアムの展覧会情報によると会期は6月20日まで延びました。同じサイトの内覧会レポートは、甲・乙・丙・丁の全4巻の全場面を会期中とおして公開する「前代未聞の展覧会」と伝えています。4巻を一度に、しかも途中で巻き替えずに見せたことが、この展覧会の一番の売りでした。

2022年の福岡市美術館の展覧会は、サライ.jpの告知によると、前期(9月3日〜25日)に甲巻と丁巻、後期(9月27日〜10月16日)に乙巻と丙巻を展示しています。会期を通して通っても、4巻が同時に並ぶ日はなかったことになります。

3つを比べると、4巻の全場面を会期を通して出した2021年の東京展は特別な回でした。2014年の京都展も4巻を出していますが、一部の作品や場面の入れ替えがありました。

次に展覧会があるときも、前期・後期で巻を入れ替える福岡のような形を想定しておくと、行く日を決めるときに慌てずに済みます。

甲巻から離れた断簡と模本はどこで見れるか

高山寺の4巻とは別に、鳥獣戯画には寺の外にある断片や写しがあります。

文化遺産オンラインの解説によると、今の甲巻は、もともと2巻あったものが伝来の途中で傷み、残った部分を1巻にまとめたものだそうです。そのため場面の抜けや順番の乱れがあり、失われた断簡もいくつか知られています。

そうした断簡の1つが、2023年6月27日に重要文化財に指定された「紙本墨画鳥獣人物戯画甲巻断簡」です。大きさは縦28.6cm・横51.2cmで、掛軸1幅の形。文化庁の解説によれば、秋草を背景に猿・蛙・鼠が左右に視線を送る場面です。今の甲巻に直接つながる部分ではありませんが、様式と紙の特徴から甲巻の断簡であることは確実だとしています。文化庁の国指定文化財等データベースによると、この断簡は滋賀県にあります。

もう1つは、東京国立博物館にある江戸時代・19世紀の「鳥獣人物戯画(模本)」です。浦上春琴が写した1巻で、縦26.8cm・横554.5cm。文化遺産オンラインは、甲巻系統の別本を写したもので、その別本が国内外に分断される前に写されたため、今では失われた場面も確かめられると説明しています。

同じ甲巻に連なるものでも、指定の格と見れる場所はばらばらです。高山寺の4巻は国宝、外に出た断簡は重要文化財で、模本は指定がありません。指定の違いそのものは国宝と重要文化財の違いで比べています。

甲巻の「欠けた部分」に興味がある人は、鳥獣戯画の展覧会が告知されたとき、4巻だけでなく断簡や模本が出品一覧に入っているかまで確かめておくと見逃しが減るはずです。

鳥獣戯画の作者と読み方

正式な名前の鳥獣人物戯画は「ちょうじゅうじんぶつぎが」と読みます。高山寺の説明どおり、4巻には動物だけでなく人物を描いた巻も含まれています。

作者は、はっきりしていません。高山寺の公式サイトによると、鳥羽僧正覚猷(かくゆう、1053〜1140)の筆と伝えられてきた一方で、絵仏師の定智や義清阿闍梨の名も挙がっており、いずれも確証はなく作者未詳とのこと。文化遺産オンラインの断簡の解説も、鳥羽僧正の筆であることを直接示す証拠はないという立場です。

甲乙と丙丁で時代がずれていることを考えると、4巻すべてを1人が描いたとは考えにくく、作者未詳という説明とも合います。「作者は鳥羽僧正」と言い切っている解説を見かけたら、伝承として読んでおくのが安全です。

鳥獣戯画を見に行く前に確かめること

鳥獣戯画の特別展が告知されたら、まず出品リストで巻ごとの展示期間を確かめます。福岡の例のように前期・後期で巻が入れ替わる展覧会では、見たい巻に合わせて行く日を決めるのが、いちばん失敗の少ない回り方です。

高山寺を訪ねる意味もあります。観光庁の解説のとおり石水院で見れるのが複製だとすれば、寺を訪ねる目的は「鳥獣戯画が伝わってきた場所を知ること」と割り切っておくと、期待と実物がずれません。先に寺を知っておけば、展覧会で本物を前にしたときにも背景がつかみやすくなります。

所蔵先がはっきりしていても、展覧会のときにしか表に出ない国宝はほかにもあります。曜変天目の3碗も同じ形で、所在と公開時期を曜変天目はどこで見れるかにまとめました。

参考